28 November, 2017

武蔵野

Field of taro

taro

 信州をあとにして中央道を南下して向かった先は武蔵野の農家。いつもお世話になっている料理家さんの畑で、里芋の収穫をされるということでぜひ!と参加の手を挙げた。
 ジャガイモは今年から参加している共同農場でこの夏、収穫したけれど、里芋の収穫は初体験。あのでっかい葉っぱの下が一体どんな具合になっているのか楽しみだった。大きな葉が特徴的なするりと伸びた茎を根元からバッサリと切って、周りをシャベルで掘り起こしていく。収穫はいつも宝物の発掘作業のようでワクワクドキドキ。持ち上げると髭のようなような立派な根がぶら下がり、大きな土の塊が出現する。ボコボコといびつに飛び出た部分を手でひねり折ると、思ったよりも軽く「パキッ」と取れる。見覚えのある里芋の形。茎の中心部は親芋と言われる巨大な里芋で、そこからニョキニョキと里芋が生えている。一つずつ手で弄りながらパキッと折る作業はクセになる感覚で、参加している子どもたちも、いくら掘っても、いくら折っても、まだ足りない様子だ。
 驚いたのは親芋の部分。里芋を取って、根っこを取って泥を落とすと、見た目はハンドボール大の巨大な里芋。実際に皮をむいて蒸したり、レンジで温めて巨大な里芋として食べられるそうだ。早速、帰宅して親芋を調理したところ味は里芋のそれそのも。なかなか一般的なスーパーには流通しないそうだが、これ、皮むくのは楽だし可食部が多くて重宝するんではないだろうか。里芋、親芋、おそるべし。とても貴重な体験でした。伯母直美先生、ごちそうさまです。ありがとうございました。

Farmer in Musashino

 武蔵野の畑は空が広い。夏は草も虫も多いけれど、この時期の収穫は快適。短い日照時間の中でも、陽の光と土からの栄養をその身に蓄えてじっくり成長を続けていく冬の野菜。夏野菜のようなガツンとしたパンチはないけど滋味深くて身体に優しく沁み込んでいく。


Japanese radish


winter citrus,Kabosu


 収穫のタイミング、食べ頃、熟れ頃、その瞬間を見逃さないように旬を取り込んでいかないとね。

11月の信州 後編

前編はこちら

Blue sky, persimmon and old warehouse

New buckwheat season


 信州新町美術館の写真展を後にし国道19号を緩やかに南下して、安曇野で両親と合流、新蕎麦を食べる。これは今回の目的にはカウントしていないけど、この時期の信州で外すことのできないイベント。実はライブ翌日の昼も、鴨さんはじめ長野の友人としっかりと新蕎麦を堪能している。滞在中、毎食蕎麦でいい。それほど美味いと思う。ただ、冬の信州、底冷えした身体で店に入ると毎回、注文をする前に温かい蕎麦にするか冷たい蕎麦にするか悩む。悩むんだ。あぁ、温かい汁につかった蕎麦を湯気の中すするのも美味しそうだ。だが、頼んだことはない。やはり冷水でキュッと締めたざるそばをいただく。そして食べ終えた後に茹で湯をいただいて漬物をつまみながら満たされる。いつか温かい蕎麦を頼む日は来るのだろうか。(今度は両方注文してみようかな)

 昼食後、松本へ向かう。松本は学生時代を過ごした町。ぼくにとっては第二の故郷という感覚。今日はここ松本で、ご無沙汰している方々に久しぶりの挨拶をしに来た。

A quirky photo shop,Mastumoto NAGANO


A quirky photographer's master ”ZEN”


talking about Photo


 一人目は松本の東、美ヶ原への登り口となる里山辺の手前にある”写真工房ZEN”さん。ぼくが写真を始めた大学生の時、世の中はまだフィルムカメラ全盛で、ZENさんのところでフイルムの入れ方からモノクロ現像、プリントのいろはを教えてもらった。ぼくの写真の入り口と言える場所。信州大学の笹本教授(現長野県立歴史館館長)と一緒に道祖神など民俗学的な見地から松本を調べ撮影された本を出版されたり、ちょっと尖った、只者ではない写真屋。真冬の上高地に撮影ツアーで連れて行ってもらったり、中古のレンズを探してきてもらったり、写真のいろんな楽しみ方をここで教わった。それが2000年頃。その頃から世の中にデジタルカメラがだんだんと普及してきて「でもまだ高いよね〜」「高い割にはまだまだ画質が悪いよね〜」なんて店内で写真仲間が集まっては写真談義していたっけ。
 2005年にフイルムカメラとデジタルカメラの販売数が入れ替わり、それ以降はご存知の通りフイルム事業は一気に縮小の一途をたどる。その頃から”写真工房ZEN”は街の写真屋から徐々にこだわりの写真屋に変化して行く。頑なにデジタルカメラを拒んだZENさんは、写真屋の主人から肩書きを”現像師”にかえて、店内の内装はまるで暗室の中のように黒く、コンパクトカメラから一眼レフ、中判と銀塩写真機が所狭しと並べられ、壁から天井まで貼れるところにはZENさんの来店スナップのL判が敷き詰められている。気軽に写真をプリントしに行く町のDPEは、銀塩一筋の個性派写真屋となって今も現像機を回している。
 それにしてもZENさん、前回お会いしたのはもう3、4年も前のこと。お会いするたびに若くなっているような気がする。すごい熱量。デジタルカメラなんてぶら下げて行ったら入店拒否されそうな勢いだが、昔のよしみで入店させていただき美味しいコーヒーをドリップしてもらい、来店スナップ返しでこちらも一枚撮らせていただいた。「Bigを追わず、Bestに挑む by 興膳禎嘉」


Matsumoto city and the North Alps at sunset time


 昨日も一昨日も雲に隠れて顔を出さなかった北アルプス、常念岳。夕方になってやっとその姿を見せてくれた。ここから眺める松本市街越しの常念岳と北アルプスがぼくは大好きだ。

 この週末はちょうどまつもと市民芸術館にて岳都・松本 山岳フォーラムが開催中。この夏、お世話になった甲斐駒ケ岳七丈小屋の主人 花谷泰広さんが講演で登壇するとのことで拝聴しにいく。会場では様々な団体、メーカーがブースを出して賑わっていて、講演会場も満席御礼でいっぱいだった。そんな大勢の人がいる会場内で、隣の人に「スーちゃん?」と声をかけられた。ぼくがアルバイトで学生時代お世話になっていた乗鞍高原ペンションありすのママが、観光協会の応援で会場に来ているとのこと。2年ぶり?3年ぶりかな?ひさしぶりの再会、しかもこんなところで偶然に。こんなことってあるんだねぇ。また雪の季節に家族で遊びに伺う約束をして会場を出た。
 
 そもそも、同じようなことに興味を持った人は、やっぱり同じような本を読み、似た場所や事柄に興味を持っていて、行く先々で再会する確率が高い。バックパックを背負って旅に出ると、だいたいの目的地やルーティングも似ていて、旅の間、何度も再会を繰り返すひとがいる。そういったひととは、やっぱり話も合うし、友人となることが多いよね。運命も感じてしまうかも。心細い旅先で、こうして心通える人に会える喜びは確かなものだと思う。

Back alley of Nawate Street,Matsumoto NAGANO


 日没後、銭湯 塩井の湯でさっぱりしてゆっくり温まって、酒茶屋やんちゃ亭へ向かう。やんちゃ亭もぼくの当時のアルバイト先で、日々の食事処でもあって、もちろん呑み処である。バイトし終えて即、その日の稼ぎでまかないにビールをつけて閉店まで呑んでたり、ぼくの胃袋をがっちり掴んでいるたいへんお世話になっていたお店。卒業後もいつも温かく迎えてくれ、ぼくにとっての松本の帰る場所だ。松本にしばらく来れていなかったのでやんちゃ亭にも来るのも2,3年ぶり。だがしかし、残念ながら本日貸切のためNGとのこと。連絡せずにいつもふらっと訪れる自分が悪いのだが、元気な顔を見せ、元気な顔を見て「また出直します!」やんちゃ亭で飲み明かすのは、また次に来た時の楽しみに。

 超がっかりしながらも、父、安曇野の友人たちとひさしぶりの外呑み、松本呑みで、居酒屋たぬきへ。その後、士官学校とハシゴして、〆はエルボールームへ。エルボールームに行くのは7年ぶりくらい。7年前、写真集「4色の猫」を出版したばかりで、そんな話になった時にマスターのナベさんが後日、写真集をAmazonで購入してくれた。でも7年も飲みに来てなくてもちろん覚えてないだろなぁ〜と思って飲んでたら「巣山さんですよね、写真集、良かったですよ」ってさっと出て来た。覚えていてくれたことも驚きだけど、すぐに出て来る場所に置いてあった「4色の猫」そのことがとても嬉しかった。そして、マフラーを忘れて帰って来てしまったので、また行くよ、ナベさん。今度は、すぐに。



Mt. Yatsugatake seen from the expressway


Mt. Fuji seen from the expressway


 がっかりしたり、舞い上がったり、そんな酔いどれた夜のおかげで、朝はすっかり寝坊してしまった。そう、今回の旅の目的の3番目は信州遠美術館で開催中の金属造形作家 角居康宏さんの鍛金展「はじまりのかたち」。午後に用事があったので朝一番に高遠へ、と思っていた。炎で金属を溶かす、その溶けゆく金属に「はじまり」を見出す角居さん。ぜひ展示を見たかったんだが会期は12月10日まで。今回は行けなくて残念。また長野市のアトリエへ遊びに伺います。
 
 帰路はよく晴れた中央道。この道の眺めは、特筆に値する。南を見れば南アルプス甲斐駒ケ岳、諏訪湖の向こうに八ヶ岳。そして八ヶ岳を抜けると甲府盆地の向こうに富士山。脇見運転にならないくらい正面にどんっといる。すごい道だと思う。
 今回も宿題を残してしまったので、また再訪する理由がいくつかできた。こうして時系列で書き出してみると、呑んでばかりの毎日。うん、それは間違いなんだけど、それ以上に、信州へ行きたいなぁ〜って気持ち、それはイコール、人に会いたいんだなぁ、と実感する。長野にいる彼に彼女に、松本のみんなに、乗鞍のあの人に。
 会いたいひとがいる。それはやっぱりすごいエネルギーなんだ。また会いに行くよ。今度会いに行くよ。
 あなたに、今あいたいです。

27 November, 2017

11月の信州 前編

Neonhall,Livehouse at NAGANO



Nice middle hour at Neonhall NAGANO

Pianoman ANIEKY A GO GO

Sachiko Akimoto on Nice middle hour at Neonhall,NAGANO


Pianoman after Live



Deepest place at NAGANO night

Bandman after Live




 11月の信州。終わりかけの紅葉と、標高の高い山上は白く、青空の下、いつも以上に街並みがカラフルに感じる季節。
 ひさしぶりの長野行き。友人の秋元紗智子さんが出演するライブへ。ドラムの鴨さんは大学の先輩。大学時代から長野を中心に伸びやかに活動を続けている二人。場所はもちろん長野のライブハウス ネオンホール。”ナイスミドルアワー”と名付けられた素敵なイベントへはファンキーピアノ弾き語りAnieky A GO GO、ブルージーなバンドサウンドにナイスミドルな切実な叫びが肌身に沁みる無礼講ロッカーズ、大人なピアノサウンドにパワフルで情感たっぷりのシャンソンが響くTina-Kが参戦。えびす講煙火大会で賑やかな長野の夜に静かに、熱い、大人な時間。爆笑しながらも、しんみりと、美味しいお酒と一緒にナイスミドルな時間を楽しみました。ライブ後は長野の夜でいろんな意味でおそらくもっともディープな場所で音楽談義。なんて贅沢な夜。

 翌日は長野の出版社オフィスMの4Fギャラリースペース”からこる坐”にて緒方真太郎 回顧展を見て、1FのBookCafeまいまい堂にて編集長と写真談義。写真家 本橋成一さんと親交の深い編集長 村石氏の含蓄ある鋭い視線をひしひしと感じながら、目の前にたくさんの写真集を広げてヒリヒリとして、けれどもとても熱く、笑いの絶えない時間だった。あんまりにも話が尽きず、ついつい長居をしてしまって慌てて次の場所へ。
 

Nagano city in early winter



Photographer Takashi Shimizu Photo Exhibition




 今回の信州行きの目的は3つ。ひとつは昨夜のナイスミドルアワー。もうひとつは現在、信州新町美術館にて開催されている清水隆史 写真展「nagano style 2003...2017」。清水隆史さんは長野を中心に活躍されている写真家で大学の大先輩。ネオンホールを立ち上げたバンドマンでもあり、地元紙を中心に執筆もされている編集者でもあり、ナガノカルチャーを牽引してきた立役者。現在は「OGRE YOU ASSHOLE」のベーシストとして活躍もされている。学生時代からぼくにとってはすでに雲の上の存在で、すごいなぁ、かっこいいなぁーと憧れの人。彼の撮る写真が好きで、今回、フリーペーパー日和にて長期連載してきた人物写真を94点セレクトし展覧会を開催すると聞いて、いてもたってもいられなくなって来たのだ。
 信州新町美術館は閉館が早く16:30。最終入館時刻ギリギリ間に合うかな〜というタイミングで到着したが、なんと休館日。。。前日23日の勤労感謝の祝日の振替休みでみること叶わず、トボトボと安曇野の実家へ。翌朝朝一番で出直すことになったがこれが結果的には大正解だった。
 信州にゆかりのある人、かかわりを感じ信州で生きているかた、旅の途上、信州に滞在するものたち、94組の人物写真、それぞれにエピソードがあって厚みがすごい。2003年から2017年までと撮影期間が長いこともあり、2017年現在、どうされているかまで追加取材されている。清水さんが撮影時にインタビューして書き起こしたキャプションを読みながら、ひとりひとりの前に立つと、撮影されるまで、撮影された時、そして撮影されたその後までが浮かび上がってきて、じっくりと時間をかけて回りたくなる。閉館前30分じゃ足りないよね。
 前日、まいまい堂で村石編集長と話をしているときに、ポートレイトで有名な写真家 鬼海弘雄さんが浅草寺の境内で何十年にも渡って人を撮り続けているという話が出た。以前、Workshop2Bで教えていただいたこと。鬼海さんの写真はシンプルな背景に一日中フラットな光が回る場所で、一定の状態、距離感で撮影されている。それは、写真的なドラマチックな光やアングル、シチュエーションを排除することで”ひと”そのもの、それだけを、本質を、写し留めようとしているから。そういった信念と、試み、そんな話だった。
 清水さんの写真はそれとは対照的に生活感溢れる場所で、外だったり、屋内だったり、その時その時の光線で撮影されている。そういった場所、空間の濃密さが、その人が信州にいる意味、そしてその暮らしをよりリアルに映し出している。写真はシャッターを切って露光された1/125秒ほどのわずかな時間でしかないけれど、そこには一瞬をはさんで連綿と続いているその人の前後が確実に記録されている、そう感じる厚みのある展示だった。会期は来年二月までと長いので、ぜひ、おすすめです。
 長野の街並みを清水さんの視点で撮影した「見慣れた街・見知らぬ表情 〜長野市の「知られざる風景」50選〜」が現在、長野県内の平安堂書店にて発売中。こちらも、写真というものがただ一面的に写っているものを表現するだけでなくて、背景や歴史、そしてそこに関わるひとと暮らし、たくさんの軸を持つことでものの見え方がかわってくる、面白くなってくる、それに気づかせてくれるディープな一冊。時間をかけて、じっくりゆっくり楽しみたい。
 

Unusual film


 清水さんからC-41カラー現像処理できるモノクロフィルムNEOPAN400CNを数本分けていただいた。国内のNEOPANはモノクロ現像しかできないはずだけど、これはイギリス?のFUJIFILMで販売中のものらしい。中身はILFORDのXP2と同じ?か、どうか、ひさしぶりにNikon FE2にフィルム詰めて撮りにいこうと思う。清水さん、ありがとうございます。