28 November, 2017

11月の信州 後編

前編はこちら

Blue sky, persimmon and old warehouse

New buckwheat season


 信州新町美術館の写真展を後にし国道19号を緩やかに南下して、安曇野で両親と合流、新蕎麦を食べる。これは今回の目的にはカウントしていないけど、この時期の信州で外すことのできないイベント。実はライブ翌日の昼も、鴨さんはじめ長野の友人としっかりと新蕎麦を堪能している。滞在中、毎食蕎麦でいい。それほど美味いと思う。ただ、冬の信州、底冷えした身体で店に入ると毎回、注文をする前に温かい蕎麦にするか冷たい蕎麦にするか悩む。悩むんだ。あぁ、温かい汁につかった蕎麦を湯気の中すするのも美味しそうだ。だが、頼んだことはない。やはり冷水でキュッと締めたざるそばをいただく。そして食べ終えた後に茹で湯をいただいて漬物をつまみながら満たされる。いつか温かい蕎麦を頼む日は来るのだろうか。(今度は両方注文してみようかな)

 昼食後、松本へ向かう。松本は学生時代を過ごした町。ぼくにとっては第二の故郷という感覚。今日はここ松本で、ご無沙汰している方々に久しぶりの挨拶をしに来た。

A quirky photo shop,Mastumoto NAGANO


A quirky photographer's master ”ZEN”


talking about Photo


 一人目は松本の東、美ヶ原への登り口となる里山辺の手前にある”写真工房ZEN”さん。ぼくが写真を始めた大学生の時、世の中はまだフィルムカメラ全盛で、ZENさんのところでフイルムの入れ方からモノクロ現像、プリントのいろはを教えてもらった。ぼくの写真の入り口と言える場所。信州大学の笹本教授(現長野県立歴史館館長)と一緒に道祖神など民俗学的な見地から松本を調べ撮影された本を出版されたり、ちょっと尖った、只者ではない写真屋。真冬の上高地に撮影ツアーで連れて行ってもらったり、中古のレンズを探してきてもらったり、写真のいろんな楽しみ方をここで教わった。それが2000年頃。その頃から世の中にデジタルカメラがだんだんと普及してきて「でもまだ高いよね〜」「高い割にはまだまだ画質が悪いよね〜」なんて店内で写真仲間が集まっては写真談義していたっけ。
 2005年にフイルムカメラとデジタルカメラの販売数が入れ替わり、それ以降はご存知の通りフイルム事業は一気に縮小の一途をたどる。その頃から”写真工房ZEN”は街の写真屋から徐々にこだわりの写真屋に変化して行く。頑なにデジタルカメラを拒んだZENさんは、写真屋の主人から肩書きを”現像師”にかえて、店内の内装はまるで暗室の中のように黒く、コンパクトカメラから一眼レフ、中判と銀塩写真機が所狭しと並べられ、壁から天井まで貼れるところにはZENさんの来店スナップのL判が敷き詰められている。気軽に写真をプリントしに行く町のDPEは、銀塩一筋の個性派写真屋となって今も現像機を回している。
 それにしてもZENさん、前回お会いしたのはもう3、4年も前のこと。お会いするたびに若くなっているような気がする。すごい熱量。デジタルカメラなんてぶら下げて行ったら入店拒否されそうな勢いだが、昔のよしみで入店させていただき美味しいコーヒーをドリップしてもらい、来店スナップ返しでこちらも一枚撮らせていただいた。「Bigを追わず、Bestに挑む by 興膳禎嘉」


Matsumoto city and the North Alps at sunset time


 昨日も一昨日も雲に隠れて顔を出さなかった北アルプス、常念岳。夕方になってやっとその姿を見せてくれた。ここから眺める松本市街越しの常念岳と北アルプスがぼくは大好きだ。

 この週末はちょうどまつもと市民芸術館にて岳都・松本 山岳フォーラムが開催中。この夏、お世話になった甲斐駒ケ岳七丈小屋の主人 花谷泰広さんが講演で登壇するとのことで拝聴しにいく。会場では様々な団体、メーカーがブースを出して賑わっていて、講演会場も満席御礼でいっぱいだった。そんな大勢の人がいる会場内で、隣の人に「スーちゃん?」と声をかけられた。ぼくがアルバイトで学生時代お世話になっていた乗鞍高原ペンションありすのママが、観光協会の応援で会場に来ているとのこと。2年ぶり?3年ぶりかな?ひさしぶりの再会、しかもこんなところで偶然に。こんなことってあるんだねぇ。また雪の季節に家族で遊びに伺う約束をして会場を出た。
 
 そもそも、同じようなことに興味を持った人は、やっぱり同じような本を読み、似た場所や事柄に興味を持っていて、行く先々で再会する確率が高い。バックパックを背負って旅に出ると、だいたいの目的地やルーティングも似ていて、旅の間、何度も再会を繰り返すひとがいる。そういったひととは、やっぱり話も合うし、友人となることが多いよね。運命も感じてしまうかも。心細い旅先で、こうして心通える人に会える喜びは確かなものだと思う。

Back alley of Nawate Street,Matsumoto NAGANO


 日没後、銭湯 塩井の湯でさっぱりしてゆっくり温まって、酒茶屋やんちゃ亭へ向かう。やんちゃ亭もぼくの当時のアルバイト先で、日々の食事処でもあって、もちろん呑み処である。バイトし終えて即、その日の稼ぎでまかないにビールをつけて閉店まで呑んでたり、ぼくの胃袋をがっちり掴んでいるたいへんお世話になっていたお店。卒業後もいつも温かく迎えてくれ、ぼくにとっての松本の帰る場所だ。松本にしばらく来れていなかったのでやんちゃ亭にも来るのも2,3年ぶり。だがしかし、残念ながら本日貸切のためNGとのこと。連絡せずにいつもふらっと訪れる自分が悪いのだが、元気な顔を見せ、元気な顔を見て「また出直します!」やんちゃ亭で飲み明かすのは、また次に来た時の楽しみに。

 超がっかりしながらも、父、安曇野の友人たちとひさしぶりの外呑み、松本呑みで、居酒屋たぬきへ。その後、士官学校とハシゴして、〆はエルボールームへ。エルボールームに行くのは7年ぶりくらい。7年前、写真集「4色の猫」を出版したばかりで、そんな話になった時にマスターのナベさんが後日、写真集をAmazonで購入してくれた。でも7年も飲みに来てなくてもちろん覚えてないだろなぁ〜と思って飲んでたら「巣山さんですよね、写真集、良かったですよ」ってさっと出て来た。覚えていてくれたことも驚きだけど、すぐに出て来る場所に置いてあった「4色の猫」そのことがとても嬉しかった。そして、マフラーを忘れて帰って来てしまったので、また行くよ、ナベさん。今度は、すぐに。



Mt. Yatsugatake seen from the expressway


Mt. Fuji seen from the expressway


 がっかりしたり、舞い上がったり、そんな酔いどれた夜のおかげで、朝はすっかり寝坊してしまった。そう、今回の旅の目的の3番目は信州遠美術館で開催中の金属造形作家 角居康宏さんの鍛金展「はじまりのかたち」。午後に用事があったので朝一番に高遠へ、と思っていた。炎で金属を溶かす、その溶けゆく金属に「はじまり」を見出す角居さん。ぜひ展示を見たかったんだが会期は12月10日まで。今回は行けなくて残念。また長野市のアトリエへ遊びに伺います。
 
 帰路はよく晴れた中央道。この道の眺めは、特筆に値する。南を見れば南アルプス甲斐駒ケ岳、諏訪湖の向こうに八ヶ岳。そして八ヶ岳を抜けると甲府盆地の向こうに富士山。脇見運転にならないくらい正面にどんっといる。すごい道だと思う。
 今回も宿題を残してしまったので、また再訪する理由がいくつかできた。こうして時系列で書き出してみると、呑んでばかりの毎日。うん、それは間違いなんだけど、それ以上に、信州へ行きたいなぁ〜って気持ち、それはイコール、人に会いたいんだなぁ、と実感する。長野にいる彼に彼女に、松本のみんなに、乗鞍のあの人に。
 会いたいひとがいる。それはやっぱりすごいエネルギーなんだ。また会いに行くよ。今度会いに行くよ。
 あなたに、今あいたいです。

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